2021.10.22 の日記:北陸旅行AnotherEnd - Chapter9 そういうのがいる

2日目の続き

魚津水族館の途中から。



ダーリアイソギンチャク。イソギンチャクだけど固着性ではなく、海流の力で転がって移動しながら生活しているらしい。

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ダーリア ダリア 漂流物


英名はpom-pom anemoneらしい。いいね。





サンゴ。

ついでにサンゴの系統と分類を調べた。

クレードを三角形で書くのクドい?

太字の分類群にサンゴが含まれる。

サンゴという言葉が指し示すものは人や場合によって異なるけど、少なくともどれも刺胞動物門 (Cnidaria) には含まれる。

ほとんどのサンゴは花虫鋼 (Anthozoa) に含まれるけど、それ以外にもヒドロ虫綱 (Hydrozoa) にサンゴと呼べるものがいてヒドロサンゴと呼ばれるらしい (知らなかった)。アナサンゴモドキ科 (Milleporidae) とサンゴモドキ科 (Stylasteridae) とウミヒドラ科 (Hydractiniidae) にはヒドロ虫綱でありながら石灰質を含む骨格を形成するものがいる。科間と科内の系統関係を調べた限り、それぞれの科において少なくとも1回以上石灰質の骨格を獲得しているっぽい。化石でも出ているらしい。


これ以降は花虫鋼のサンゴについて書く。

先程載せた写真に写っている「硬いサンゴ~ハードコーラル~」は全て花虫鋼六放サンゴ亜綱イシサンゴ目 (Scleractinia) のサンゴである。南国のサンゴ礁を想像したときに思い浮かぶ (と僕が想像している) ような典型的なサンゴは十中八九イシサンゴ目である。イシサンゴ目のサンゴは、アラゴナイトの骨格を持ち、浅海で褐虫藻を共生させて光合成をしている。ただし例外もあり、現在知られている中で1種のみ、アラゴナイトとカルサイトの両方からなる骨格を持つものがいる。また、褐虫藻を共生させずに懸濁物食だけで生きているものもそこそこ多く、写真の「薄暗い場所にすむサンゴ」のうち2種はイシサンゴ目のサンゴである (残りはMalacalcyonacea)。

イシサンゴ目内のアラゴナイト骨格は単一起源だと考えられているが、花虫鋼全体ではそれに加えてアオサンゴ目 (Heliopracea) とオオキンヤギ科 (Primnoidae) で、少なくとも2回独立にアラゴナイト骨格を獲得している。アオサンゴ目もオオキンヤギ科もどちらも八放サンゴ亜綱のScleralcyonaceaというクレードに含まれ、イシサンゴ目とは系統的にかなり遠い。アラゴナイト骨格、軽率に作られすぎである。

イシサンゴ目における褐虫藻との共生については、共通祖先で共生が始まりその後複数回独立に共生を止めたか、あるいは共生していない共通祖先から複数回独立に共生を始めたかのどちらかの進化史が考えられるが、研究によって主張が異なる。僕が確認できた研究は全て、系統関係を推定して共生の有無の祖先復元をするという手法をとっていた (そもそも系統分類の研究をメインに調べていたせいだが)。しかし、おそらく共生の進化もしくは“退化”が系統全体に渡って少なくない回数起こっているので、この手法では特定の進化史が飛び抜けて強く支持されることはないと思われる。特定の進化史を強く支持できる手法があるとしたら、共生に関係する遺伝子を比較するとか、分子化石から光合成の証拠を見つけるとかそういうのが有力な気がする。


写真の「軟らかいサンゴ~ソフトコーラル~」の話をする前に八放サンゴ亜綱について少し触れる。従来の八放サンゴ亜綱はウミトサカ目 (Alcyonacea)・アオサンゴ目 (Helioporacea)・ウミエラ目 (Pennatulacea) から構成されていた。しかし最近になって複数の研究でウミトサカ目の多系統性が支持されたので、ウミトサカやウミキノコなどを含むウミトサカ目の一部がMalacalcyonaceaを構成し、宝石サンゴとして有名なアカサンゴやベニサンゴを含む残りがアオサンゴ目とウミエラ目と共にScleralcyonaceaを構成するような分類体系になったようである。

写真の「ソフトコーラル」のうち6種がMalacalcyonacea、1種がホネナシサンゴ目、1種がスナギンチャク目のサンゴである。基本的にカルサイトの骨片や軸を持つ。

ここまで書いて力尽きた。終わりです。


(To Be Continued...)



参考
刺胞動物 (Cnidaria) 内の系統 (2018年):
Phylogenomics provides a robust topology of the major cnidarian lineages and insights on the origins of key organismal traits | BMC Ecology and Evolution | Full Text
・Hydroidolina (ヒドロ虫亜綱?) 内の系統 (2008年):
Phylogenetics of Hydroidolina (Hydrozoa: Cnidaria) | Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom | Cambridge Core
・Hydroidolina内の系統 (2015年):
Phylogenetic analysis of higher-level relationships within Hydroidolina (Cnidaria: Hydrozoa) using mitochondrial genome data and insight into their mitochondrial transcription [PeerJ]
・Hydroidolina内の系統 (2021年):
Tackling the phylogenetic conundrum of Hydroidolina (Cnidaria: Medusozoa: Hydrozoa) by assessing competing tree topologies with targeted high-throughput sequencing [PeerJ]
・花虫鋼 (Anthozoa) 内の系統と骨格や共生の進化 (2021年):
Phylogenomics, Origin, and Diversification of Anthozoans (Phylum Cnidaria) | Systematic Biology | Oxford Academic
・花虫綱内の系統と骨格の進化 (2020年):
Palaeoclimate ocean conditions shaped the evolution of corals and their skeletons through deep time | Nature Ecology & Evolution
・イシサンゴ目 (Scleractinia) 内の系統と共生の進化 (2010年):
A Comprehensive Phylogenetic Analysis of the Scleractinia (Cnidaria, Anthozoa) Based on Mitochondrial CO1 Sequence Data | PLOS ONE
・イシサンゴ目内の系統と共生の進化 (2011年):
The ancient evolutionary origins of Scleractinia revealed by azooxanthellate corals | BMC Ecology and Evolution | Full Text
・イシサンゴ目内の系統 (2023年):
A hybrid-capture approach to reconstruct the phylogeny of Scleractinia (Cnidaria: Hexacorallia) | Molecular Phylogenetics and Evollution
・カルサイト、アラゴナイト混合の骨格を持つ唯一のイシサンゴ目サンゴ (2020年):
A modern scleractinian coral with a two-component calcite–aragonite skeleton | PNAS
・イシサンゴ目の共生の進化 (2010年):
Repeated loss of coloniality and symbiosis in scleractinian corals | PNAS
・イシサンゴ目の共生の進化 (2020年):
Frontiers | The Origin and Correlated Evolution of Symbiosis and Coloniality in Scleractinian Corals
褐虫藻と共生していた三畳紀のイシサンゴ目サンゴ (2016年):
Photosymbiosis and the expansion of shallow-water corals | Science Advances
八放サンゴ亜綱内の分類体系 (2022年):
Revisionary systematics of Octocorallia (Cnidaria: Anthozoa) guided by phylogenomics | Bulletin of the Society of Systematic Biologists