無限集合から無作為に1つ要素を選ぶことについて少し前に考えていた。
数学的には「無作為に1つ要素を選ぶ」という行為が有限集合に対してのみ定義されているので、そもそも無限集合から無作為に1つ要素を選ぶことはできない (定義されていない)。しかし、それが本当にできないということを直感的に把握するのはかなり難しい。そこで、それができるものと仮定すれば、なぜかはわからないが矛盾が発生する逆説的なクイズを作ることができる。
まずは可算集合 (無限集合のうち、要素を数え上げることができるもの。自然数全体との全単射が存在する) について。
自然数全体から無作為に1つ選んだときにそれが偶数である確率は?
— a (@a151595) 2022年8月12日
問1.1「自然数全体から無作為に1つ選んだときにそれが偶数である確率は?」
直感的に考えれば答えは当然 \(1/2\) である。
では問題をこう変えたらどうだろうか。
問1.2「集合 \( \{ 1,3,2, 5,7,4, ... , 4k-3,4k-1,2k, ... \} \) から無作為に1つ選んだときにそれが偶数である確率は?」
集合の要素を表す順番が変わっただけで同じ問題である。しかしこちらだと答えが \(1/3\) になっても良さそうで、問1.1の結果と矛盾が生じている。そんなことない?順番を変えたのが悪くて、答えは \(1/2\) のまま?でも集合の要素を列挙する順番は確率に影響しないのでは?
他の例も提示しよう。
問1.3「既約分数 (有理数) 全体の集合から無作為に1つ選んだときに分母が偶数である確率は?」
有理数全体の集合も自然数全体のそれと同じく可算集合である。しかし、有理数を数え上げる決まったやり方は存在しない (しないよね?)。各有理数の間に大小関係はあるが、例えば「\(1/2\) の次の有理数」というものは存在せず、純粋な大小関係以外の何かを基準に数え上げる必要がある。
この確率はどうやって計算したらいいのだろう。そもそも「分母が偶数である確率」なんて存在するのだろうか?
え?ただ計算方法が思いつかないだけであって、確率は存在するはずだって?僕があまりに愚かで矮小な蛆虫だから計算方法が思いつかないだけで、確率は存在するはずだって?
ではこういう例はどうだろう。
問1.4「有理数をある規則 \(A\) に従って数え上げたとき、偶数番目の要素を \(G_A\) とする。有理数全体の集合から無作為に1つ選んだときにそれが \(G_A\) である確率は?」
問1.5「次に有理数をある規則 \(B\) に従って数え上げたとき、\(3\) で割り切れる順番の要素を \(G_B\) とする。有理数全体の集合から無作為に1つ選んだときにそれが \(G_B\) である確率は?」
普通に考えたら答えはそれぞれ \(1/2\) と\(1/3\) で、他の値にする理由はなさそうである。
自然数と有理数は全単射で関係づけることができるので、問1.4と問1.5はそれぞれ問1.1、問1.2と本質的に全く同じ問題である。その場合 \(G_A\) と \(G_B\) は完全に一致する。同じ有理数の集合から同じ \(G_A\) あるいは \(G_B\) の集合を選んでいるのに、答えが定まらない。
このように、問題の作り方によって答えを任意の0より大きく1より小さい有理数に設定することができる (\(0\) と \(1\) は無理?)。これは、「無限集合から無作為に1つ要素を選ぶ」という定義されていないことをやっているからこういうことになるのである。
さて、それでは改めて、自然数全体の集合から無作為に1つ選んだときそれが偶数である確率はいくつだろうか?
答えは「1/2ではない」である。問題の不備により全員正解です。
以上、本日は可算集合の例について、あまりに愚かで矮小な蛆虫がお送りしました。
(続く)