2021.06.26 の日記:世界の有界性

レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』の感想の続き。

12話目『黒白対抗戦』

黒人と白人がチームに別れて野球をする話。

これは明確に黒人差別を取り巻く雰囲気を書いているんだろうけど、身近な差別として黒人差別がよく認識できていないのでただ読んだだけになってしまった。

差別に普遍的にある構造を見出して身近な問題と照らし合わせるような感想を書ければそれっぽくなるけどそこまでするモチベーションがないな。


13話目サウンド・オブ・サンダー (雷の音)』

過去に行ったら歴史を変えてしまった話。

人に勧められて読み始めた。「【名前】さん、この本の『題名』って話が好きそう」と言われたので興味を持って読み始めた。

2021.06.20 の日記:ネタバレ人間 - ぬるぬるバイオマット日記


そもそもこの本を読み始めたきっかけとなったのはこの話なのである。

バタフライ・エフェクトという言葉が広まる20年ほど前、さらに言うとカオス理論が登場するよりも10年ほど前に書かれた話である。過去を変えると未来が大きく変わるというのはまあ言ってしまえば誰でも思いつきそうなことであるが、この話のすごいところはカオスの定義のひとつとされる有界性を巧みに取り入れているところである。

例えば比が1よりも大きい等比数列は初期値の僅かな違いが指数的に大きくなっていくという点でカオスと同じ初期値鋭敏性を持っているが、値が無限に発散してしまうため有界性を持っていおらず、そのためにカオス的な挙動とは言えない。カオスは初期値鋭敏性だけではなく有界性をもって、将来の値の予測を困難にさせるのである。

1億年前の世界で1匹の“ネズミ”を殺してしまった場合に未来の世界で人類が誕生しなくなってしまうというお約束がある。その“ネズミ"は人類の祖先の1匹であり、後に集団に固定される重要な遺伝子を突然変異により獲得した最初にして唯一の個体だった考えると説明ができるだろう。その“ネズミ"が生むはずだった子孫が生まれなくなり、さらにその子孫が生むはずだった子孫も……というように僅かな差異が蓄積していきその結果として人類が存在しない世界が生まれる。このお話はどことなく先程の等比数列の例に似ている。初期の差異は単純に増加していき結果として大きな違いとなるが、その結果はある程度予測ができる。

ここで世界を動かすシステムが有界であることを考えよう。システムの構造やパラメーターが変化しない限り1億年前にどんな摂動が与えようとも6600万年前に恐竜は絶滅し、その700万年後にイモガイ科が登場し、さらにその約5850万年後に現れたヒトが恐竜やイモガイの研究をするようになる。SFチックな説明をすると、過去の摂動で分岐したパラレルワールドはそれぞれの方向へ進むのではなく、しめ縄のように互いに絡み合い、ときにはごく近傍を交差しながら“世界線”を形成する。世界のおおまかな流れは有界な範囲内に制限されているが、世界がその範囲内のどこを通過するかを予測することは非常に困難である。

サウンド・オブ・サンダー』はそういう世界において過去改変がどういう影響を与えるのかをカオス理論の登場前に感覚的に理解したうえで書かれた作品である。厳密なカオス理論に落とし込んで定式化するのは難しそうだけど、だいたいこういうイメージである。


まあでも好きな話かと言われるとそうでもないな。教養として読んでおいて良かったという程度の感想。


これでだいたい全話の半分くらい読んだのでちょっと休もうかな。

(続くけどしばらく休憩)