2021.08.07 の日記:目に映る全てのことは

マンガとか映画とかの感想を書いてなかったものがいくつかあるので忘れないうちに書き記しておく。感想を書くのめちゃくちゃ疲れるので避けてきたけど楽しくもあるのでここでエイヤッと書いてしまいたい。

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メッセージ

2016年のSF映画。映画にしては珍しくハードSFと呼べるタイプのSFである。 ハードSFとは、ただ宇宙人が出てくるだけとかただ未来が舞台であるだけとか科学っぽいものが出てくるだけのSFではなく、科学を題材にしたSFのことである。舞台設定やストーリー展開を科学 (主に物理学) を使って説明できるSF、というとわかりやすいかもしれない。

ハードSFといえば天体物理学とかの印象が強いが、この映画は解析力学とか言語学をテーマにしたSFである。

めちゃくちゃネタバレをすると、人間は直感的に微分形式の物理学 (運動方程式とか) を理解しやすいが、そこに直感的に積分形式の物理学 (解析力学みたいな) を理解しやすい宇宙人がやってくる。その思考法は使用される言語にも反映されており、コミュニケーションのために彼らの言語を習得しようとした人類側の言語学者は彼らの思考法までも習得してしまう。積分形式の物理学では、物体が運動するときに無限の経路の中から最良の経路を予め知っていたかのように通る (例えば光が最短の経路で媒質中を通るように) が、彼らの言語を習得した言語学者はそういった感覚で自身の人生 (経路) を知覚するようになり……、というあらすじ。あらすじというかこれで内容の8割説明してしまったが。

作中に出てくる宇宙人が使う言語には語順というものがなくて、書くと円形に飛び散った墨みたいな感じになり、全体を合わせて初めてひとまとまりの意味のつらなりを構成する。これ (2021.04.09 の日記) じゃん!と思って興奮した。

過去未来の感覚についての話は好物だし、言語学的な話もちょうど好きなところの話だったのでかなり良かった。人生で見た映画の中でも上のほうに来る気がする。

ぶっちゃけハードSFとしては科学的に論理の飛躍があると思うけど、そこは気にならないくらい根本のアイデアが面白い。


原作は小説で、「あなたの人生の物語」というタイトル。映画がめちゃくちゃ良かったので原作のほうも読んでしまった。

こちらはわりと印象が違っていて、映画っぽい盛り上がりの起伏がなく、最初から最後まで淡々とストーリーが進んでいく。壮大なスケールという感じはしない。ざっくりとしたストーリー展開は小説と映画でそれほど違いはないが、登場人物の心情とか雰囲気がわりと違っている。どちらが優れているというわけではないけど、僕は原作のほうが好み。まあ原作を雰囲気そのまま映画にしたら絶対にヒットしないので、映画は映画で映画としての良作になっていると言って良かろう。理屈を説明しなきゃいけないハードSFはそもそも映画に向いていない。

映画では省かれていた説明も詳しく書かれていて面白かった。映画を見ただけではモヤモヤしていたところもだいたい解決した。映画の登場人物の心情で、え~そうはならんだろ~、と思っていたところも原作だと納得できるような描写になっていたので、やはり読んで良かった

オススメです。